5.18.2015

バロックヴァイオリン 02 くぎ

 haja&Chi
イタリア ヴァイオリン チェロ 作家
永石勇人 清水ちひろ


釘を打つ準備中
した穴を空けてからニカワを流し込む


 ルネッサンスから19世紀の半ば頃まで実に350年間、弦楽器のネックには釘が使われている例が多く見られます。

 バイオリンの前進であるリベーカは木をくり抜いて作られるため釘の必要はなかったようですが、ヴィエッラまで来るとネックが箱から飛び出して固定されているので釘が必要になってきました。
 リュートのネックなども釘で固定されていることが多く,もちろんガンバ属もです。


グァダニーニのネック釘付き
出展:Joannes Baptifta Guadagnini
 fecit Parmae ferviens
  ヴァイオリン族は長く長く生き残って改造されてもまだ使われたために釘が残っているものはミュージアムでしみれないのではないでしょうか・
 19世紀のフランス辺りでネックを伸ばし始めた時に釘をとって、ブロックをかえて、ネックも切って・・・と最終的にいま見慣れたヴァイオリンになったわけです。

 さて、強度は断然釘アリの方がたかく、ニカワと釘のダブルでほぼとれません・・いま流行の製作スタイルですとヴァイオリンの箱をつくってからネックを差し込むため釘を内側から打つのは困難です。現代のヴァイオリンのほぼ全てに釘は入っていません。
 これは推測ではありますが、、19世紀に始まったヴァイオリンの量産体制でこちらの方が”はやい”ので今のいままで屈折した伝統としてこの工法が残ったのかとも思います。アルコールニスやパーフリングを最初に入れるなど。。実は合理性にまけて導入された技法もたくさんあります。


ストラディヴァリのテノール・ヴィオラ
のレントゲン写真
  


 釘は日本でも古来より使われていたような和釘と同じ角錐のもので頭がついています。
焼きを入れていたかは様々だとはおもいますが、湾曲させて入れてある楽器のレントゲン写真もみたことがあるので、中に入って柔らかい方が都合がいいこともあるようです。
 アンティーク市でみかけるイタリアの古釘は手でまげられる柔らかさです。

本数は、クレモナではヴァイオリンで3本でアマティ、ストラディヴァリ、グァルネリで共通。グァダニーニもそれにならいます。。チェロになると??です。

 釘を熱していれるのはウソです。ニカワを流し込んでサビを生じさせます。もう抜けることはないでしょう・・・

 クラッシック期もすぎるころ、ネジも見られるようになります。これまた興味深いストーリーです



サント・セラフィンのチェロのオリジナルネック
釘が鬼打たれている。
本当に取れて欲しくなかったのが伺える・・

5.12.2015

バロックヴァイオリン 01 バスバー

 haja&Chi
イタリア ヴァイオリン チェロ 作家
永石勇人 清水ちひろ

 ご承知の通り、ヴァイオリンが生まれたときは今の形と若干ちがっていました。
所謂、バロックヴァイオリンと呼ばれるものです。
 それでも400年前の楽器をほぼそのまま改造してでも使っているのはヴァイオリンぐらいなもので楽器のなかではかなり珍しく、当時から”使えた”のは間違いありません。

 実際のところ、音楽のバロックの時期は長いですからその中ですこしづつ変化して行くヴァイオリン属の楽器を全部ひっくるめてこのように呼ぶ慣習です。。

 150年ぐらいつづいたバロック期には物流の変化すら関わっていたようです。
 黒檀やスネークウッドと言ったエキゾティックな珍しい木材はバロック初期にはかなり少なく、ブラザーアマティのオリジナルのフィッティングにはツゲやナツメが使われていました。
 バロック後期〜のグァダニーニの時代になると指板、ペグなど多くのパーツでまるまる黒檀が使われるようになっていきます。
 もちろん巻き線が100%流通したためツゲより固い木が必要になったのかもしれません・・

17世紀後期ヴァイオリン バスバーは244mm、高さ10mm
流通しているガット弦に合わせて高めに設定
 音楽シーンで際立ってきたバロック時代のヴァイオリンは今よりもう少し小さいものでした。弦長は320mm前後、箱の大きさも小さめのものが多く指板も今より短く、バスバーも短いものでした。






pollensの記事(2004):
はずされたオールド名器のバスバーたち
ストラディヴァリのオリジナルのバスバーもいまよりかなり短く、手もとの資料によると最短で237mm、長いもので254mmとなっていいます。現在では270mm強になっています。
 高さも7mm前後で今の10〜11mmに比べるとかなりひくく、弦のテンションとの兼ね合いで設定されたものと思われます。